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※2026年1月の行政動向を踏まえて更新しています。
はじめに:突然の「手当カット」は人生への直撃弾
「給与明細を開いた瞬間、いつもあるはずの“役職手当”が消えていたんです。
驚いて上司に聞いたら、『今期は業績が悪いから仕方ないだろ』と、それだけ言われました。」
このような相談は、私の事務所に年間を通じて数多く寄せられます。
手当カットは、単なる“給料の一部”ではなく、生活や将来に直結します。
給与が減るだけでなく、
- 家計の不安
- 「自分が悪いのでは?」という自責
- 会社への不信感
- 今後の職場環境への恐怖
こうした精神的ストレスが一度に押し寄せます。
まず一番大事なことをお伝えします。
あなたが悪いわけではありません。
手当の一方的なカットは、法律的にも実務的にもほぼすべてが“違法または無効”です。
この記事では、実際の判例や相談実録をもとに、
- どこが違法か
- どう対処すべきか
- ブラック企業によくあるパターン
- やってはいけない我慢
- あなたを守る方法
これをすべて解説します。
【今回の相談】突然の役職手当カット。その裏に隠れていた“違和感”
相談者:Aさん(30代・男性・営業職)
勤続年数:6年
家族:妻・子2人
ある日、Aさんは給与明細を確認し、固まりました。
毎月3万円支給されていた役職手当が、突然ゼロになっていたのです。
理由の説明はたった1行。
「今期業績悪化のため、役職手当は当面カットします。」
Aさんが上司に聞くと、こう返されました。
- 事前の説明なし
- 書面の通知なし
- 就業規則にも記載なし
- 同僚にも同様の被害
Aさんは深夜まで就業規則や過去メールを読み返しましたが、手当カットに関する記述は一切ありません。
「これは自分が悪いのか?評価が下がったのか?」という自責の念に駆られながらも、「でも何かおかしい…」という違和感は消えません。
そして、同じような相談が複数届いていることを知り、Aさんから私に連絡が来ました。
【結論:手当の“一方的なカット”は原則違法です】
手当は無予告で削れるものではありません。
法律でも明確に「勝手な不利益変更は違法」とされています。
● 労働契約法8条(合意なき不利益変更の禁止)
労働契約法8条は、賃金や手当など労働条件について、労働者の合意がない限り不利益に変更できないことを明確に定めています。
たとえ会社側に経営上の理由があったとしても、「来月から手当をなくす」「一時的だから了承してほしい」といった説明だけで一方的にカットすることは原則として認められません。
書面や明確な同意がない手当削減は、違法と判断される可能性が高いのが実務の考え方です。
● 就業規則は万能ではない(合理性の基準とは)
会社側は「就業規則を変更したから問題ない」と説明することがありますが、就業規則は万能ではありません。
労働契約法10条により、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更する場合は、その内容に合理性が求められます。
具体的には、変更の必要性、労働者への影響の大きさ、代替措置や経過措置の有無などを総合的に判断されます。
合理性を欠く手当カットは、就業規則を変えていても無効となる可能性が高いのです。
● 事前説明なしの削減は完全にアウト
手当の削減について、事前の説明や協議が一切ないまま実施することは、法的にも実務的にも完全にアウトです。
賃金や手当は生活の基盤であり、突然減らされれば労働者に与える影響は極めて大きくなります。
そのため、会社には変更の必要性や理由、影響の程度について丁寧に説明し、理解と合意を得る努力が求められます。
説明なし・同意なしの手当カットは、不利益変更として無効と判断される可能性が高いと言えるでしょう。
● 一方的に役職手当カットは最悪の違法行為
→ 実質的な賃金未払い
結論として、Aさんのケースのように、
- 説明なし
- 就業規則に記載なし
- 一方的
- 同意なし
これは ほぼ確実に“違法” と言えます。
【法律のポイント】不利益変更とは何か?会社の“よくある回答”
手当カットの相談でよく聞く会社の状況は、次の3つです。
● パターン①「業績が悪いから協力してもらう」
→ 原則、業績悪化は不利益変更の理由にならない
→ 一律カットは“合理性なし”と判断されやすい
● パターン②「手当は会社の裁量だから」
→ 裁量手当でもルールがあれば従う必要がある
→ 書面なし・合意なしは“無効”
● パターン③「制度が変わっただけ」
→ 不利益を伴う制度変更は 説明+合意+合理性の三点セットが必須
法律上、これらの考えはほとんど通りません。
手当カットの判断基準【判例で理解する】
手当カットが合法か違法かは、判例上「どれだけ大きな不利益か」「会社側にどれほどの必要性や合理性があるか」「手続きは適切だったか」などを総合的に判断する傾向があります。
単に“能力不足だから”“制度変更だから”という理由だけでは認められず、金額の大きさ、降格との関係、業務実態の変化、会社の説明状況など、全体のバランスを丁寧に検討するのが裁判所のスタンスです。
①東京都事業者整備振興会事件(役職手当カット・有効)
(東京高判平21.11.4労判996号13項)
副課長のパフォーマンスが妥当ではない、と会社が判断して降格したことが発端となる裁判です。
顧客対応として窓口業務を行っていた副課長について管理職にもかかわらず、多くの顧客から苦情が寄せられており、会議においても度々この問題が取り上げられていました。
会社側としては役職手当(3,862円)の不支給を伴う係長への降格処分について、1ランクのみの降格、また役職手当上の不利益も本給額のわずか1パーセントの違いに過ぎず、会社の権利濫用には当たらないとしています。
②広島精研工業事件(役付手当カット・無効)
(広島地判令3.8.30労判1256号5項)
課長の能力が適正ではない、と会社が判断して降格したことが発端となる裁判です。
労働災害や不良品の社外流出は課長にも責任があったが、課長職から平社員への大幅な降格、それに伴う役付手当6万円の不支給は必要の範囲をこえていると判断されました。
賃金の15%相当の減額は権利濫用として無効としています。
ちなみに、合理的理由もなく残業拒否、約4カ月半にわたり仕事を与えず社長から激しい叱責もあり、うつ病で自宅療養となった経緯も考慮されました。
会社の労働者に対する、安全配慮義務違反もあわせて判決が下りました。
③ニチイ学館事件(賃金の減額・無効)
(大阪地判令2.2.27労判1224号92項)
営業統括部の課長に対して、営業実績が未達だったことによる賃金減額が発端となった裁判です。
法人営業において課長に過大なノルマを果たし、未達成となると3段階の降格、総額240,500円(約45%の減額)の給与減額を行ったものです。
わずか1年の実績で管理職としての適性を評価するのはあまりに酷であり、減額の金額も不利益の程度は極めて大きい、人事権の濫用であるとして会話側の対応を無効としてます。
④アメリカンスクール事件(基本給等の減額及び降格・有効)
(東京地判平13.8.31労判820号62項)
施設管理部長Xが学校の定める倫理観と大幅にずれていて、減額を行ったことが発端となる裁判です。
具体的には、学校Yの施設管理部長Xが長期間にわたり取引業者から謝礼を受け取っていたため、会社は就業規則違反として降格・減給処分を行いました。
基本給の減額として、月額598,008円を月額554,189円(約7.4%の減額)とし、あわせて2階級下のアシスタントマネージャーへの降格という措置でしたが、謝礼は職務を大幅に逸脱、また就業規則等の手続きも問題もなし、減額や降格もバランスの取れた措置だったため学校Yの処分は妥当と判断しています。
【社労士実録】ブラック企業の給与カットで見た“ヤバい実例”
実務ではさらに次のようなケースもあります。
● ケース1:能力不足で基本給カット
能力不足を理由に基本給を即カットすることは、法律上も実務上も認められにくい行為です。
まず前提として、会社は「能力不足」と判断する前に、指導記録・指示書・改善計画などを書面で交付し、証拠を残しているかが問われます
また、基本給は人事評価制度に基づき労使で基準を共有して決める必要があり、突然の減額は合理性を欠きます。
実際に下げる場合も、激変緩和措置として段階的に行う配慮が必須です。
● ケース2:素行不良で基本給カット
素行不良を理由に、いきなり基本給を下げることは法律上も実務上も認められません。
会社には就業規則に定めた懲戒制度がありますが、原則として段階を踏んだ指導が必要になります。
まずは口頭での注意・指導を行い、それでも改善がなければ「けん責(始末書提出)」へ進み、それでも繰り返す場合に初めて懲戒としての減給が検討されます。
また、減給処分には労働基準法に明確な制限があります。
1回の減給額は平均賃金1日分の5割以内でなければならず、さらに1賃金支払期間の減給合計は賃金の1割を超えてはなりません。
減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
引用:労働基準法第91条
つまり、「ずっと基本給をカットし続ける」「大幅に給与を下げ続ける」といった処遇は完全に行き過ぎであり、法律上も無効となる可能性が極めて高いものです。
実務では、懲戒処分は“1事案につき1回”が原則であり、日常的・継続的に基本給を下げる運用は、懲戒権の濫用として強く問題視されます。
● ケース3:残業代をカットするために基本給カットと固定残業代アップ
残業代の支払いを避けるために、基本給を下げて固定残業代を増やすという手法は、実務上きわめて問題が大きく、労基法違反に該当する可能性が高い行為です。
基本給を下げれば残業単価は下がり、明確な不利益変更になります。
実際の計算例を確認してみましょう。
計算例(残業代あり)
月間平均所定労働時間 160時間
残業時間 40時間
基本給200,000円
固定残業代50,000円
給与総額 250,000円
200,000円÷160時間×1.25倍×40時間=62,500円
50,000円-62,500円=マイナス12,500円
12,500円超過分の支払いが必要!
それが、給与の内訳を変えると超過分が無くなります。
計算例(残業代なくなる)
月間平均所定労働時間 160時間
残業時間 40時間
基本給180,000円
固定残業代70,000円
給与総額 250,000円
180,000円÷160時間×1.25倍×40時間=56,250円
70,000円-56,250円=13,750円
固定残業代に金額がおさまってしまう!
このように本来もらえるはずだった残業代が支給されなくなり、労働者の不利益変更となります。
法的に問題の多い措置と言えるでしょう。
手当カットをする会社で起きがちな“他の労務トラブル”
手当のカットはあなたが悪いのではありません。
これは会社の労務管理が違法行為を行っている現象 です。
あなたの生活を脅かすような企業は、転職も視野に入れて動くべきです。
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👤 監修者プロフィール
社会保険労務士 三島 潤
三島社会保険労務士事務所 代表
- 顧問先100社以上の労務管理をサポートし、年間数百件の労務相談に対応
- ブラック企業の実態に精通し、安心して働ける環境づくりに尽力
- 「ブラック企業を減らし、幸せな職場を増やすこと」を使命に、企業経営者・働く人の双方を支援中
転職・ブラック企業の情報を専門家視点で発信しています。
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