あなたは自分の事業を進める中で、もしもの事態に備えているでしょうか?
事業を行う上で、労働災害は避けられないリスクの一つです。
その際に必要となるのが、労働者災害補償保険、通称労災保険です。
しかし、事業主や事業主の家族は、通常の方法ではこの保険に加入できません。
そこで重要となるのが「特別加入」という制度です。
特別加入制度は、労災保険に加入することが難しい人々が、労災保険に加入できるようにするための制度です。
特別加入を利用すれば、業務上の事由や通勤中の事故による負傷、疾病、障害、死亡等に対して、必要な保険給付を受けることができます。
この制度により、事業主自身も、家族も、労災保険の適用を受けることが可能になります。
特別加入の手続きは、特別加入申請書を最寄りの労働局や労働基準監督署に提出することで完了し、保険料は会社負担で、金額は選択した給付基礎日額により変動します。
保険料は、労災が発生した際の給付金を確保するためのものであり、あなたの安心と安全を守る投資と言えます。
特別加入制度は一見複雑に思えるかもしれませんが、そのメリットは大きいです。
万が一の事態に備えて、しっかりと理解し、適切に活用することで、あなた自身とあなたの大切な人々を守ることができます。
本記事では、労災保険特別加入制度の詳細な手続きやメリット、デメリット、保険料の計算方法など、あなたが知りたい情報をわかりやすく解説します。
あなたのビジネスと安全を守るための重要な一歩、一緒に踏み出しましょう。
労災保険の特別加入制度の概要
労災保険の特別加入制度とは、一定の条件を満たす中小事業主や事業主の家族が労災保険に加入できる制度です。
言い換えれば労災保険が本来対象としない者を保護するための制度で、一定の条件を満たすことで特別に加入が可能となります。
中小企業の事業主やその家族が、労災保険の特別加入制度を利用して加入し、業務中や通勤途中に事故に遭った場合でも給付を受けられます。
まとめると、労災保険の特別加入制度は、中小事業主や事業主の家族など、本来は労災保険の対象外である者が保護を受けられるようにする重要な制度です。
特別加入制度の目的と対象者
特別加入制度の目的は、本来は労災保険の対象外となる人々にも保険給付を提供し、社会的な保護を拡大することです。
対象者は一定の条件を満たす中小事業主や事業主の家族などです。
労災保険は、業務上の事由や通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行い、労働者の社会復帰の促進を目的としています。
特別加入制度は、社会保護の範囲を拡大し、中小事業主やその家族なども保護するための制度であり、働く人全体の安全と健康を保障する重要な役割を果たしています。
ちなみに対象者は中小事業主以外にも、一人親方その他の自営業者、特定作業従事者、海外派遣者があります。
労災保険に加入できない人は
労災保険に加入できない人とは、通常、事業主や事業主の家族、または一定の条件を満たさない者たちを指します。
労災保険は基本的に労働者を対象とした制度であり、事業主自身やその家族は原則として対象外です。
ただ、特別加入制度を利用することでこれらの人々も保護を受けられます。
また、特別加入制度でも一定の条件を満たさなければ加入することはできません。
一人で事業を行っている個人事業主や、従業員がいない会社の経営者は、特別加入の加入対象外となります。
もともと、この特別加入制度の趣旨は労働者と一緒に現場で働く事業主、事業主の家族従事者を保護することが目的です。
したがって、建設業などの一人親方や一定の業種の方を除いて、一人事業主は特別加入の対象外となります。
労災保険の特別加入の手続き
中小企業経営者や独立した専門職者が労災保険の特別加入を希望する場合、以下の要件を満たす必要があります。
まず第一に、雇用する労働者に対する保険関係が成立していることが必須です。
平たく言うと、すでに労働者が労災保険に加入している状態を指します。
そして第二に、労災保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していることが求められます。
これらの要件をクリアし、さらに最寄りの労働局の承認を得ることで、特別加入が可能となります。
申請に必要なものは、「特別加入申請書」であり、これを所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長に提出します。
申請書には、特別加入を希望する人の業務の詳細、業務歴、希望する給付基礎日額などを記入する必要があります。
特別加入は、それぞれの事業ごとに行われます。
事業主本人だけでなく、家族労働者など労働者以外で業務に従事している人全員も特別加入の申請対象となります。
特別加入は包括加入が原則で、加入者を事業主が選ぶということは出来ないようになっています。
例えば、実際に現場に従事するのが事業主、事業主の配偶者、事業主の息子の3人の場合は全員の加入が必要です。
ただし、病気療養中や高齢など、実際には事業に従事していない事業主は特別加入の対象から除外できます。
特別加入の申請に対する労働局長の承認は、申請日の翌日から30日以内で、申請者が加入を希望する日となります。
注意点
特別加入をする日は未来日付となります。
たとえば、現在は6月1日だが、5月25日にさかのぼって加入といったことは出来ません。
これは不正加入を防止するものであり、このさかのぼりを許してしまうと実質未加入でも保険給付を受けられてしまうのです。
具体的には、業務中に事業主が怪我をしてしまったとき、数日前にさかのぼって加入すれば保険給付を受けられてしまうという、いわゆる後出しジャンケンが成立してしまいます。
これを防ぐために、加入日は未来日付となります。
特別加入の変更があった場合
すでに特別加入を承認されている事業で変更がある場合は、「特別加入に関する変更届(中小事業主等及び一人親方等)」を提出します。
この変更届は特別加入者の氏名や業務内容などが変わったとき、新たに事業主になった人が出てきたとき、新たに事業に従事する人が現れたとき、または一部の特別加入者が特別加入の要件を満たさなくなったときに必要となります。
なお、災害発生後に変更届を提出しても、すでに発生した災害の給付には影響しません。
また、一年間に労働者を雇用する日数が100日未満の場合、特別加入はできません。
ただし、一人親方等及び特定作業従事者の加入要件を満たす場合は、加入が可能です。
さらに、特別加入している中小事業主等が東日本大震災の復旧・復興のために新たに除染業務を開始する場合、業務内容の変更を報告する必要があります。
この際、除染作業を行う中小事業主等は、労働者と同じく被ばく線量の管理を求められます。
以上が、中小事業主等が労災保険の特別加入を行うための手順と要点です。
これらを正確に理解し、適切な申請や報告を行うことが、事業運営における安全の確保という観点から非常に重要です。
特別加入の保険料は?誰が払う?
特別加入の保険料は、会社が負担します。
具体的な保険料の額は給付基礎日額というものによって決まります。
ちなみに、最近は給付基礎日額の選択の幅が広がり、新たに22,000円、24,000円、25,000円が選択できるようになりました。
特別加入制度の保険料は会社が負担し、給付基礎日額によって決まるため、事業主自身が適切な給付基礎日額を選択することが重要です。
保険料の計算例
労災保険の特別加入の保険料を計算するには、まず計算式を確認しましょう。
下記が計算式となります。
給付基礎日額×365×それぞれの事業の保険料率=年間の保険料
給付基礎日額とは保険のコースのようなもので、希望の金額を選択することができます。
現在の収入に沿って決める必要はなく、高い金額でも安い金額でも自由に選ぶことができます。
ちなみに一番高い金額は25,000円となっており、これは保険料も高いですがもらえる給付も高い金額となります。
一番安い金額は3,500円ですが、これは保険料が安く、もらえる給付の金額も安いものとなります。
25,000円 | 24,000円 | 22,000円 |
18,000円 | 16,000円 | 14,000円 |
12,000円 | 10,000円 | 9,000円 |
8,000円 | 7,000円 | 6,000円 |
5,000円 | 4,000円 | 3,500円 |
対象者によって給付基礎日額などに若干の違いがあるので、具体的な保険料額は下記ををご覧ください。
特別加入のメリット
特別加入制度の最大のメリットは、本来労災保険に加入できない立場の人々が、業務上の事由や通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して保険給付を受けることができる点です。
予期できない事故に遭った事業主やその家族に必要な保険給付を行い、確実な社会復帰の促進を目的としています。
特別加入制度は、本来労災保険に加入できない人々に対し、業務上や通勤中のリスクから保護するメリットを提供します。
特別加入のデメリット
デメリットとしては、保険料の会社負担が必要であることが挙げられます。
特別加入制度は主に中小事業主などが対象であり、保険料は全額会社負担となります。
特別加入制度は、会社負担の保険料が必要であるため、その費用負担が会社にとっては経営上のデメリットとなりえます。
しかし、業務中や通勤の事故リスクから保護されるメリットを考慮すると、それが必要で適切な選択となります。
特別加入の保険給付は?
原則として労働者が受給する保険給付と同様の給付内容となります。
ちなみに特別加入の保険給付の額は、給付基礎日額をいくらに設定したかに基づきます。
選択できる金額は一定の範囲内に設定されています。
特別加入者は自身の所得状況に関係なく給付基礎日額を選択することができますが、選択できる金額は一定の範囲内に設定されており、その範囲外の金額を選択することはできません。
そして、仮に給付基礎日額を4,000円と設定した場合、給付金額はその日額に基づいて計算されます。
給付金額は〇日分といった表現が多くあり、例えば給付基礎日額の100日分、給付基礎日額は4,000円となると下記のように計算するイメージです。
給付基礎日額4,000円×100日分=400,000円
400,000円が保険給付として、被災した方に支給されるといった内容です。
実際に支給される金額はいくらか
実際に支給される金額は、給付基礎日額と給付対象となった労災の内容、及び休業期間等によって異なります。
労災保険の給付はバリエーションに富んでおり、非常に手厚い給付制度となっています。
たとえば、業務上や通勤の怪我や病気に対する無料の治療があります。
通常は病院で保険証を出して3割が自己負担となりますが、労災対象の怪我や病気の場合は無料で治療を受けることが可能です。
また、業務上や通勤の怪我、病気が原因で業務を休まなくてはならない、いわゆる休業の状態のときは休業中の生活保障が支給されます。
そして、もし仮に障害状態になってしまった場合は長期で保障される年金型の給付があります。
つまり、その障害状態が続くのであれば何年にもわたって支給されるものがあります。
万が一被災された労働者が亡くなってしまった場合、残されたご遺族に対しての補償もあり、その他にも介護に対応する給付、葬式代や特殊な健康診断など給付が多岐に渡ります。
それぞれ金額が決まっているので、選択した給付基礎日額を基に計算するとおおよその給付額が判明します。
事前にどのくらいの給付がもらえるのか、実際にシミュレーションしてみると良いでしょう。
具体的な給付の種類と金額はこちら。
まとめ
労災保険の特別加入制度は、労働を行っているが労災保険に加入できない人々に対する保護制度です。
対象者は、個人事業主やその家族など、労働者の定義から外れる方です。
申請は最寄りの労働基準監督署を経由して労働局に対して行い、保険料は会社が負担します。
給付基礎日額は加入者が選択し、業務中や通勤中の事故による負傷、疾病、障害、死亡等が給付対象となります。
支給される金額は、給付基礎日額を軸に計算されます。
これらの制度の内容を事前にしっかり確認しておき、実際に事故が起きたら迅速に活用できるように準備しておきましょう。